お知らせ

タミフルのお話

皆さんよくご存知のインフルエンザウイルス感染症の治療薬です。
化学名はリン酸オセルタミビル製剤です。インフルエンザに対し ては非常に有効なお薬ですが、本年度および昨年度は、その副作用 がメディアなどで話題になりましたね。特に精神、神経症状が問題になりました。

*注意;インフルエンザ菌という細菌もありますが、これはインフルエンザウイルスとは別物です。

タミフルの一般的な副作用としては、下痢、嘔吐、低体温、痙攣などが あります。また2004年1月には乳児への投与を控えるようにとの「使用制限 の要請」がありました。ラットの試験で、幼若ラットでは、投与されたタミフルの脳内の濃度が、成人に比べ非常に高くなる傾向が指摘されています。当院でも1才未満の乳児には使用を控えています。

問題の精神神経症状ですが、添付文書には「意識障害、異常行動、譫妄(せんもう)、幻覚、妄想、痙攣などに注意」と記載されていますが、「その頻度は不明である」とされています。

今年のインフルエンザシーズンには、小学生、中学生、高校生(高校生は少ない)などの、タミフル服用時の転落事故、道路への飛び出し事故、 夜驚症的事故、あるいは服用直後のパニック事故などが多数報告されました。これをうけて、2007年3月21日、厚生労働省より「10歳以上の未成年 の患者に原則として使用を控えること」という文章を添付文書の警告欄に書き加えるように、という緊急安全性情報が出されました。

この勧告に従えば、満10歳から20歳未満の人にはタミフルは使えないことになってしまいますね。

●ここで、タミフルの薬理作用について

インフルエンザウイルス表面には、
1,ヘマグルチニン(HA)スパイク(細胞内への進入に必要)と、
2,ノイラミニダーゼ(NA)スパイク(細胞外への遊出に必要)と呼ばれるもの があります。
インフルエンザウイルスは、表面のヘマグルチニン(HA)を介して、 ヒトの呼吸気道の上皮細胞に結合し感染を起こします。その結合はシアル酸結合 です。細胞に感染して増殖したウイルスは、次には細胞から遊離しますが、 その際にはシアル酸結合を解く必要があります。ここで働くのが、ノイラミニダーゼ(NA)です。NAはシアル酸を破壊し、インフルエンザウイルスと細胞との結合を解いて発芽(遊離)を可能にします。

タミフルの標的はこのNAです。インフルエンザウイルスが有するノイラミニ ダーゼ(NA)を選択的に阻害します。そして、細胞内で増殖して形成されたインフルエンザウイルスが細胞外に遊離、放出されるのを抑制するのです。タミフルの作用により、感染し増殖したインフルエンザウイルスは細胞から遊離できず、ウイルス同士が凝集してしまうのです。

ウイルスの活性がなくなるわけではなく、細胞内にウイルスは残存しています。タミフルを途中で打ち切ると、リバウンド(再燃)してしまうのは このためですね。

タミフルは、インフルエンザの症状が発現してから48時間以内に服用しないと効果は無いとされています。しかし、実際は症状が出現してから4日も5日も経っていても十分効果はあるという印象を受けています。インフルエンザにも鼻水や鼻粘膜の炎症といった初期症状があり、それがだんだん全身症状へと進んでいくのですが、「症状がピークに達してから48時間過ぎると効かない」 と表現を改めたほうが良いかもしれません。どの時点から48時間なのかは、 難しい点ですね。

予防的投与としては、1日1カプセルを7日間。成人および13歳以上の小児。治療には、1日2カプセルを7日間。成人および体重37.5kg以上の小児に投与するとなっています。
添付文書によると、体重37.5kg以上で、成人量と同じ2カプセル=(ドライ シロップ換算5g)となっていますが、小学校高学年で体重40kgの児童もあり、小学校高学年、中学生、高校生には大人量はあまりにも多すぎる感じがしています。やはり、いくら体重があろうとも、小学生、中学生、高校生は、年齢や生理活性にあわせて減量すべきだと思われます。当院では高校生までは 減量して投与しています。

タミフルの有用性は81%とされています。タミフル以外にも抗インフルエンザ 薬として、リレンザ(ザナミビル)があります。有用性は75%。気管内吸入の形で使用します。したがって鼻粘膜には作用しないとされています。インフルエンザウイルスの感染、伝播には、鼻からの飛沫による感染が重要とされているので、ちょっと困る点ですね。また、気管内吸入に対する患者さんの不安感もあります。

タミフルの耐性ウイルスの出現率1.4%とされています。耐性ウイルスは、今のところA型のみで、B型には出現していません。耐性ウイルスではNAのアミノ酸変異が認められており、感染力や増殖力は弱いとされています。

母乳に移行するタミフルは微量であり、しかもほとんどが吸収効率の悪い活性体(タミフル自体は非活性体のプロドラッグ)なので、現実問題として、授乳中の母親がタミフルを服用することは差し支えないと思われます。添付文書 には、「必要性が危険性を上回るときのみ投与可能」とされています。すなわち授乳中も「ほぼ服用して大丈夫」と判断してよいでしょう。授乳中の場合は、相談の上、決めて行きたいと思っています。

*プロドラッグ;タミフルのように、服用する時には効果のない前駆体で、体内で有効なお薬に変化するというお薬のことです。

●インフルエンザの予防
まず潜伏期ですが、一般に、飛沫感染を受けた後、8時間で100個に増殖し、1〜3日の潜伏期の後、発病するとされています。
予防の基本は予防接種です。不活化ワクチンなので回数は多いほうが良いと思われます。私自身は3〜4回は打つようにしています。
上記項目にも書いたように、タミフルは治療だけではなく、予防にも使うことができます。ただし、抗ウイルス薬を予防的に、あるいは初期から投与すると、血清HI抗体価は上昇しません。
予防的投与や、ごく初期のタミフル投与の場合は「免疫はできてないのでまたかかる可能性がある」と思っていたほうが良いと思われます。

●最後に、もう一度、異常行動などの副作用についてですが。
副作用について考える場合、タミフルを服用して起きる副作用と、インフルエンザそのものの症状がオーバーラップしているというということを認識 しておく必要があります。副作用以外でも、インフルエンザでは熱性譫妄が認めれられ、これは睡眠中におきることが多いのです。
服用しない場合に起きる脳症や肺炎のことなども考え合わせると、インフルエンザの治療は迅速検査とタミフルのおかげで、総合的にはずいぶん楽になったような気がします。
タミフルを使用しない場合の、苦しみや合併症を考えると「恐い副作用があるから使えません」とは簡単に言い切れないのです。患者の皆様やご家族 と相談しながら注意深く使って行きたいと思っています。

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